金曜日

店に、Nちゃんから電話。

「Kが危篤だ」と。

Kは4、5年前に、男では珍しい乳癌の手術を受けました。

2、3年前までは良かったのですが、最近、癌が全身に転移。

Nちゃんは、Kと同棲(人間以外に犬2匹、猫13匹)しています。

Kが入院をしている病院に行こうと、9日(土曜日)、午前10時少し前に家を出ました。

JR環状線近鉄電車と乗り継いで、〇〇駅に。

駅のバスターミナルで、病院行きのバスに乗りました。

病院のナース室でKの病室を聞いて、3階の個室に行きました。

Kはベッドに腰掛けて、テーブルにもたれていました。

危篤との話でしたが、持ち直した様です。

まだ61才だけれど、Kは一回り小さくなった様です。

Kは、頭は剃刀で剃っています。

机に乗せた腕は、リンパを取っているのでパンパンに腫れていました。

左手には点滴の針と管。

私達が見舞いに行ったことは喜んでくれていましたが、表情はあまり変えませんでした。

Kが淡々と、独り言の様に言います。

「携帯で、電話をしても、姉さんも出ないし、Nも出ない。今朝は通じたのに」と。

「Nちゃんは怒っているのかな?(自分がNに)何か悪いことをしたのかな?」と。

開いた携帯を見ると、携帯は電池切れ。画面は真っ暗。

前々日の夜に救急車で入院してから、充電はしていなかった様です。

「電池が切れているよ」と私が言っても、Kは一所懸命、携帯で電話をしようとしていました。

そんなこんなしている間に、Nちゃんが家から車で来ました。

岡ちゃんが、お見舞いの熨斗袋をKに渡そうとしたら、KもNちゃんも、「良いよ、良いよ」と受け取ってはくれませんでした。

そこで、Kが言いました。

「僕が死んだら、香典としてNちゃんに渡して。香典返しは出来ないけれど」と。

自分が死んだ後のNちゃんの事を、Kは心配して言ったのです。

NちゃんとKが出会ったのは10年近く前。

Kが一方的にNちゃんに惚れこんでしまいました。

「(腰の骨を折って後遺症が残った)Nちゃんの面倒を一生みる」と、Kは宣言。

そして、2人の同棲が始まりました。

それ以来2人を見ていると、“人生って、切ないなー”と、私は思ってしまいます。

帰る時間が来たので、岡ちゃんと私は病室を後にしました。

病室を出てから、私は後悔しました。

Kを抱きしめることは出来ないにしても、握手くらいして来ればよかったと。