大佐、お久しぶりです

「おやじさん、何してるんです。眠れないんですか」と、雄太がベッドから言う。

時間は朝の4時頃。

老舗ホテルの窓から見る外は、まだ暗い。

「ここに来てごらん」と、私。

雄太は裸のまま、私の隣に立った。

「あそこ、見てごらん。交差点の向こう」と、私は指をさす。

「オレンジ色の街灯の下に、人影がチラチラ見えるだろう。走っているのかな」

「そうですね。かすかに人影が見えるような、見えないような」と、雄太。

このホテルに雄太と泊まるようになってから今日で3回目。

その3回とも、この時間に目が覚め、なぜかしら外を見るようになってしまった。

「あの数人の人影が気になるんですか。もし何なら今度泊まる時、確かめてみましょうか」と、雄太。

その日から約1ヶ月後、雄太と同じホテル、同じ部屋に泊まった。

やっぱり、この前と同じ4時に目が覚めた。 窓の外は暗い。

交差点を超えたあたりに目を凝らすと、やはり数人の人影が。

私は、深い眠りに落ちている雄太を揺さぶり、起こす。

さも眠たげに眼をこすり、「おやじさん」と一言。

雄太も窓の外を見て、「今日もいますね」

雄太は素早く、ジョギングの服装になり、バックからシューズを取り出しながら言った。

「おやじさん、俺、行くから携帯電話、持っていて下さいね」と。

雄太は靴を履き、部屋を出て行った。

私は窓の外を見続けていた。

雄太らしき人影が交差点を超えて行く。

携帯電話が鳴る。 ONにして耳に当てる。

「聞こえますか。僕が見えますか」

「あー、聞こえるよ。見えているよ」

「今、彼らの近くにいます。彼らは変な格好で走っています。まるで映画『八甲田山』に出て来た兵隊のような恰好をして。なぜだろう。もう少し、近付いてみます」と、雄太。

雄太はチラチラ見える人影の中に、吸い込まれていった。

携帯電話で、「もしもし」と、私が呼びかけても、応答がない。

ちょっとした間に、雄太の影も、人影も消えた。

どうしたのだろうと気にして、雄太の帰るのを待っていたら、20分くらい経った頃、雄太は戻って来た。

彼は気だるそうに服を脱ぎ、「疲れた」の一言を残して、隣のベッドにもぐり込んでしまった。

まー、話を聞くのは明日でも良いか、と思い、私は眠りについた。

ごそっと、私の体に重みがかかり、雄太が乗って来た。

さっきやったのに又、やるのか、と私。

雄太の唇は私の左右の乳首をもてあそび、愛撫は少しずつ、少しずつ、下の方へと移動する。

もう1度、上に戻って来て、耳元で雄太が言った。

「大佐、久し振りです。藤本です」と。

私は頭の中で、「ふじもと。ふじもと。雄太ではないのか」と、思案。

その間も彼の愛撫は続き、いとも軽く私をうつぶせにして、私の背中を上から下へ、それから尻の割れ目へと唇が舌が移動する。そして、私の秘部を。

彼の執拗な愛撫により、私は少しずつ高みに、異次元に上りつめる。

彼の亀頭が私の秘部に当てがわれ、彼が言う。

「入れていいですか。大佐」と。

私は力を抜き、体制を整え、腰を浮かす。

亀頭が入り、そして、竿が少しずつ挿入される。静かに、深く。

完全にペニスが挿入したことを確認し、彼が腰を使い出す。

私は彼の突きに合わせて息を整え、二人は一体化。

まるで重力がないかのように私の体を、彼が望む体位に変えて行く。

彼のいきり立ったペニスは、私の内臓を執拗に突き上げる。

2人の肉体は、一塊の白いもやの様な気体となり、宙に浮き、快楽の波間をただよい始める。

彼の息とエネルギーが今ここに存在し、2人は波間をさまよう。

時間が静かに流れて行き、「大佐、行きます」と、彼。

そして激しい突きの後、私は彼の射精を受けた。

昔、「セックスの相手が直腸の中で射精するのがわかる。その瞬間がわかる」と言っていた友がいた。

まさにそれだ。彼の精液が私の中に発射されたのを、私は生まれて初めて感じ取れた。射精の瞬間、目を閉じていた私の前に白光がはじけた。

彼は射精後もわずかに腰を使い、時とともにペニスはなえ、私の秘部から外れた。

そして、彼は私の耳元に口を近づけて、言った。

「大佐、ありがとうございました。これで俺も、やっと成仏できます」と。

彼は疲れた体を隣のベッドに運び、眠りの底に沈んでいった。

部屋の空気が、ゆるやかに変わった。

今のは雄太ではない。

あの濃い眉毛。あの頑丈な鼻柱。あの厚い胸板。あの岩の様な腹筋。太い腿。形容しがたいあのペニス。

今のは、確実に雄太ではなかった。

頭の中に霞がかかり、「大佐、大佐」の声が遠くでこだまする。

私は間もなく、眠りに落ちた。

ガタガタと云うあわただしい物音で、私は目覚めた。

「雄太、どうした」と声をかけると、「会社に遅れそうです」との返事。

「今、何時だ」

「八時過ぎです」

「もし、送れそうだったら会社に電話しろよ」

「はい、分かりました」

雄太はあわただしく、後ろ手に部屋のドアを閉めて出て行った。